AT&Tは現在厳しい状況にあり、今後株価がどうなっていくのか心配されています。
なぜAT&Tの株価が急落したのか、減配したのはなぜか、誰にでもわかりやすく解説。
さらに今後の見通しも分析しています。
売りか買いか迷っている方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
ネット証券口座おすすめランキングTOP10!初心者に人気の証券会社を紹介
AT&Tとはどんな会社?
AT&Tとは、世界最大の通信企業です。
電話を発明したあのグラハム・ベルが、1885年に創業した「ベル電話会社」を前身としています。
本社があるのは、アメリカのテキサス州です。
現在では電話会社、番組制作会社、映画製作会社の顔を持っています。
- 電話、携帯電話、インターネットの回線提供
- 有料テレビチャンネルの提供
- 映画の制作・配信・配給、ストリーミングサービスの提供
アメリカには他にも「Verizon(ベライゾン)」、「T-Mobile(Tモバイル)」などの通信事業会社がありますが、中でもAT&Tは通信企業ランキングで世界1位を取っている、最大手の会社です。
近年の動き|雲行きが怪しい?
2015年以降、衛星放送大手の「ディレクTV」や、映画会社「ワーナー・ブラザース」を傘下に持つ総合メディア企業の「タイム・ワーナー」を買収。
メディア・エンターテイメント事業に力を入れてきました。
また、5Gの環境整備にも注力しています。
しかし詳しくは後述しますが、2021年には、買収したばかりのワーナーやディレクTVを切り離してしまいます。
しかも同時に、2022年5月から配当金も減配すると発表されました。
AT&Tは今まで、驚異の36年連続増配を維持していましたが、ついにその記録がストップしたのです。
「なんだか先行きが心配になってきた…」というのが、AT&T株の現状です。
関連記事:株式投資で失敗する人の特徴は?原因と対策を徹底解説!
AT&T株の強み
「先行きが不安」との声もあるAT&Tですが、依然として以下のような強みがあります。
36年連続増配!利回り8%台の実績を持つ超高配当銘柄
AT&T株の最大の魅力といえば、高配当銘柄ということでしょう。
過去の配当利回りの推移は、こちらの通りです。
AT&Tはこれまで配当利回りが8%台で、正真正銘の超高配当銘柄でした。
36年間もずっと増配を続けていたのです。
しかし2021年に経営方針の大幅な見直しがあり、それに伴って2022年2月1日のプレスリリースで、ついに減配が確定しました。
配当金はこれまでの約半分になってしまいます。
とはいえ依然として、高配当銘柄であることに変わりはありません。
関連記事:高配当株で配当金生活も夢じゃない!高配当株の選び方&儲けワザ
25年以上連続増配を続けた企業を「配当貴族」と言います。
「S&P 500配当貴族指数」のような、配当貴族に投資するETFや投資信託もあるほどです。
AT&Tも配当貴族でしたが、こういったETFや投資信託から省かれていくと予想されています。
通信事業最大手
AT&Tは世界一の顧客数を誇る通信会社です。
ネットフリックスのようなストリーミングサービスが物凄い勢いで拡大した近年、映像分野では苦戦しているものの、携帯電話の契約者数は現在も業界トップを維持しています。
また通信事業は毎月契約者から継続して収益を得られるため、安定性が高いとして投資家に好まれています。
株価が下がっている現在は狙い目、という見方もできるでしょう。
歴史とブランド力
AT&Tの前身は、電話を発明したグラハムベルが作った会社です。
歴史に名を残す人物が作った会社というブランド力があります。
また、米国株式市場の株価指数のひとつであるS&P500に選ばれている、優秀銘柄でもあります。
現在は経営状況が良くないとはいえ、会社のネームバリューやブランド力はまだまだ健在です。
AT&Tの株価急落や減配の理由
ずっと好調だったAT&T株は、なぜ急落し、減配に至ったのでしょうか。
おもな理由としては、ネットフリックスのようなストリーミングサービスが急速に普及し、AT&Tはその流れに乗り遅れてしまったからということが挙げられます。
順を追って見ていきましょう。
2015年にディレクTVを買収
AT&Tは通信とメディアの融合を目指して、ディレクTVを負債も含め670億ドル(約7.1兆円)で買収すると合意した旨を、2014年5月18日に発表。
この買収は2015年に実行されました。
アメリカの衛星テレビ放送最大手。
有料で見れるチャンネルを提供しています。
日本で言うスカパーのような存在です。
おもに北中南米地域で事業展開しており、数千万の顧客を抱えていました。
日本でも短期間だけサービスをおこなっていましたが、うまくいかずに撤退しています。
ディレクTVを買収したAT&Tは、アメリカでもっとも多くの有料テレビ加入者を抱える会社となりました。
しかし当時、一部のアナリストや投資家の間では、この買収に対する疑問の声が上がっていました。
アメリカの衛星テレビは、新規加入者数が頭打ちとなっており、「衛星テレビ放送の会社を買収しても、今後需要が見込めないのでは?」と心配されていたのです。
当時から「今後はインターネット映像サービスが成長する」と予想されていて、結果その通りになっていきます。
2018年にタイム・ワーナーを買収
2018年6月には、タイム・ワーナー(現ワーナーメディア)を、854億ドル(約9.4兆円)で買収しました。
この買収は、2016年10月に発表されていたものです。
ワーナーというと、日本では映画を見るときに企業ロゴを目にしたことがある方も多いでしょう。
タイム・ワーナーは映画会社「ワーナー・ブラザース」や、ニュース専門チャンネル「CNN」、テレビ局「HBO」などを傘下に持つ、総合メディア企業です。
2018年6月15日に、社名をタイム・ワーナーからワーナーメディアに変更しました。
当時人々はすでに、動画を携帯端末で見るようになっていました。
AT&Tは有力なコンテンツを傘下に収めて、利用者を囲い込もうとしたのです。
また、AT&Tの本業である通信事業が伸び悩んでいたので、その分を映像メディア事業で補おうという狙いもありました。
「AT&Tが映像配信市場に本格的に参入する!」として、かなり注目された出来事です。
しかしこの買収には、反発の声もありました。
アメリカ司法省は、「ディレクTVだけでなくタイム・ワーナーまでAT&Tに買収されると、巨大なメディア企業が誕生することになり、競合他社にとって不公平だ」と提訴。
しかし裁判所はこの訴えを却下し、結果買収はそのままおこなわれることになりました。
2021年に買収した2社を切り離し株価下落
AT&Tの雲行きが本格的に怪しくなってきたのは、2021年です。
買収した2社の切り離しを発表
AT&Tは2015年以降に買収した以下の2社を、母体から切り離し、新会社として独立させることを発表しました。
- ディレクTV…2015年に買収した、有料テレビチャンネルの大手企業。
- ワーナーメディア(元タイム・ワーナー)…2018年に買収した、映画やテレビに関するメディア会社。
ディレクTVの株は、30%が投資ファンドのTPGキャピタルに売却されました。
またワーナーメディアは、メディア企業のディスカバリーと統合され、新会社「ワーナー・ブラザース・ディスカバリー」が誕生することに。
これを受けて株価は10%下落しました。
さらに2021年6月末には、自社で運営する移動通信サービス向けのコアネットワークを、Microsoft(マイクロソフト)に売却すると発表。
このニュースも世界に大きな衝撃を与えました。
なぜ2社を独立させたのか?3つの理由
なぜ買収したばかりの会社をすぐ切り離したのかというと、端的に言って、事業がうまくいかなかったからです。
しかし他にも、おもに2つの理由があります。
①映像事業の不振
まずひとつめの理由は、映像事業の不振です。
AT&Tは本業である通信事業が伸び悩んでいたので、その分を映像メディア事業で補おうと、ディレクTVやワーナーメディアを買収しました。
しかし結果として、AT&Tの映像メディア事業は、買収にかかったコストを取り返すような利益を生み出すことに失敗します。
ディレクTVを買収した2015年時点では、AT&Tの有料テレビ会員数は2,542万人と、全米トップでした。
しかし2020年末には1,650万まで急激に減り、業界2位となってしまいます。
もともと世間では、ネットフリックスのようなネット動画配信サービスがメインになりつつありました。
そのため有料テレビの会員数を伸ばそうというのは世の中の流れと逆行しており、厳しい見方をされていましたが、ここまで一気に会員数が減ってしまうというのはAT&Tにとっても想定外だったでしょう。
②5Gへの投資
世間では、5G網を整備しようという動きが本格化しています。
先述した通り、AT&Tのメインは通信事業なので、この大きな波に乗らないわけにはいきません。
しかし5G網を整備するためには、莫大な資金が必要です。
AT&TはディレクTVやワーナーメディアを買収したことで、かなりの負債を抱えていました。
そのためメディア事業を切り離し、財務体質を改善しなければ、5G投資の資金を用意するのが厳しいという事情があります。
③ストリーミング市場での競争力の強化
3つめの理由は、ディズニープラスやネットフリックスといったストリーミングサービス(いわゆる映像系のサブスク)が思いのほか台頭してきて、競争力を付けなければ太刀打ちできなくなったからです。
2014年にAT&TがディレクTVを買収すると発表した時点のストリーミングサービスは、まだそれほど脅威ではありませんでした。
たとえばネットフリックスの2014年の売上高は55億ドル、営業利益は4億ドルです。
対するディレクTVは売上高1,324億ドル、営業利益117億ドルで、まだまだ有料テレビチャンネルのほうが存在感が大きかったのです。
しかし6年後の2020年には、ネットフリックスの会員数は全世界で2億人、売上高は4.5倍にまで成長。
株の時価総額も、AT&Tを70億ドルほど上回りました。
AT&T傘下のワーナーメディアも「HBOマックス」というストリーミングサービスを2020年に開始しましたが、世界的なシェアはまだまだで、出遅れた感が否めません。
そこでワーナーメディアとディスカバリーを統合し、コンテンツを充実させることで、ストリーミングサービス市場で競争していく力を付けようというわけです。
2022年7月の株価は過去20年で最大の下げ
以上のような流れを受けて、2022年2月を最後に、AT&Tの連続増配記録はストップ。
2022年5月からは、減配となりました。
また2022年7月21日には決算を受けて、株価が一時11%安と、2002年以来最大の下げ。
ご覧のように、現在も株価は右肩下がりです。
まだ回復の兆しは見られません。
AT&Tの業績が振るわないのは、コロナ禍で消費者の生活が圧迫されており、通信料金を思うように回収できていないという要因もあります。
関連記事:割安成長株は投資のいいとこ取り?見つけ方の解説&おすすめ銘柄5選を紹介
AT&T株価の今後を予想。売りか買いか
AT&Tの株価は今後どうなるのか、売りか買いか分析しました。
今後の不安要素
経営状況が良くない
AT&Tは経営が火の車です。
2022年の第2四半期末時点で、1,319億ドルもの負債を抱えています。
さらに怖いのが、今後金利が上昇し続ける可能性です。
そうなれば、この負債はますます重くなってしまいます。
この状況を打破するため、AT&Tは配当支払い後の余剰フリーキャッシュフローの大半を、債務の返済に充てる方針です。
これにより、債務を60億ドル近く削減できると考えられています。
しかしそれでもまだまだ負債は莫大なため、すぐ経営状況が良くなるとは考えにくいです。
5Gの性能で他社に負けている
アメリカの携帯大手3社は、AT&T、Verizon、T-Mobileです。
携帯電話の契約者数では、依然としてAT&Tが業界トップを走っています。
しかし5Gの性能で市場をリードしているのは、競合のT-Mobile。
T-Mobileはスプリントを買収し、強力な5Gネットワークを構築しました。
AT&Tは、2021年第2四半期以降、性能面でT-MobileやVerizonに遅れをとっています。
今後5Gがさらに普及してきたとき、AT&Tの立ち位置がどうなるか心配です。
AT&Tも自社の5Gネットワークを強化しようと投資していますが、M&Aで多額の負債を抱えるAT&Tにとっては、コストが足枷です。
とはいえAT&Tは5G対応スマートフォンを対象とした無制限プランを提供していたり、4Gの回線速度が速かったりといった強みを持っています。
しかしお得な価格設定で通信を提供しているせいで、経営が圧迫されているのも事実です。
ストリーミングサービスで成功する見込みはイマイチ
AT&T傘下のワーナーメディアは、「HBOマックス」というストリーミングサービスを2020年に開始しました。
しかしすでにネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、強力なストリーミングサービスが市場にひしめいているため、HBOマックスが入り込むスキはそうそうないでしょう。
これからコンテンツを充実させることで顧客獲得を図っていますが、苦戦しているのが現状です。
関連記事:株を買うタイミングはいつ?初心者が知っておきたい株の買い方・売り方
長期投資なら「買い」もありだが不安要素が多い
AT&T株は割安です。
減配となったものの、高配当銘柄であることに変わりはなく、安定性の高い通信事業で世界トップシェアです。
とはいえ映像事業では今後うまくいく兆しがまだ見えず、主力の通信事業でも、他社との競争に勝っていけるか不安があります。
株価もすぐには回復しない可能性が高いです。
配当目当ての長期投資なら「買い」もありですが、堅実に行くなら、しばらくは様子見が必要でしょう。
コメント